Happiness
初めてお前に出会ったときのことは、今でも鮮明に覚えている。オレがガキだった頃、森で迷って途方に暮れているオレの前に、お前が空から虹色に輝く羽をはためかせて目の前に現れたんだ。
その時、オレは生まれて初めて女をきれいだと思った。
森の外へオレを送り出すまでの間、お前は自分の家族のこと、故郷を守る戦士としての使命を話してくれた。
お前は寂しいことやつらいこともあるけれど、自分には役目があるから幸せだ、と言ってた。
…オレにはお前が幸せそうには見えなかったけど。
そして別れ際、お前は僕にこう言った。
「あなたに幸せが訪れますように」
そして、お前は虹色に輝く自分の羽を僕にくれた。
だからなのか?
二度目に会ったとき、お前は自分の家族も故郷も美しい羽根も自分の幸せも全部無くしてオレの前に現れた。
だから、オレがお前を幸せにしなくちゃならない、そう思ったんだ。
「サクラ?」
スミレがサクラの部屋へと入ってきた。けれど、そこにいたのは…
「スミレお兄さん、サクラさんを探しにいらっしゃったのですか?」
「ああ、…そうだよ。君も呼んでお茶でもしようかと思ってね。」
「ありがとうございます、スミレお兄さんの出してくださるお茶とお菓子はいつも美味しいですから。」
が笑顔でそう言うと、スミレは満面の笑顔。
そして、の頭をなでる。
「ああ、みたいな素直な子がサクラの恋人になってくれただなんて私は嬉しいよ。
今までサクラにはもう…いろいろ振り回されて私は胃を痛める毎日で…そう、いろいろ…もう…ほんとに…いろいろ…。」
「スミレお兄さん…苦労されたのですね…。」
よろめくスミレをが支えた。
「」
そこへようやく部屋の主が帰ってくる。はにこりと笑ってサクラを迎えた。
「おかえりなさい、サクラさん。今日はおでかけだったんですか?」
出迎えるを見てサクラは不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「風呂。」
「え、めずらしく汗でもかいたんですか?」
「違う、一緒に風呂行くよ。」
「えっ!!」
は頬を赤くする。別にサクラと一緒に風呂に入るのは初めてではない。
ただ、スミレの前でそう言うことを言われることに羞恥を感じたからだった。
「はぁ、お前そういうことは私がいないときに言ってくれよ。
まぁ、どうぞ仲良くしてきなさい。
お風呂が終わったら二人でお茶を飲みにおいで。」
スミレがあきれたような口調でそう言うと、サクラはの手を引きそのまま部屋を出ていく。
「サクラさん、スミレお兄さんの言うとおりですよ。
別に入るのが嫌ではないですけれど、恥ずかしいじゃないですか。」
「うるさいな、さっさと行く!」
「は、はい…。」
はサクラに強引に手を引かれてバスルームへと連れて行かれる。
バスルームに着くと、服を脱ぎサクラは先に入っていった。
はため息をつき、サクラの脱ぎ散らかした着替えを整えると、フェイスタオルを一枚もってバスルームへと入っていった。
先に入っていたサクラは、数種類の薬草を用意して浴槽に入っていた。
も控えめに浴槽に浸かると、サクラはの体を注意深く見回す。
「また仕事でケガしてきただろ、今日は足と腕!」
サクラは不機嫌そうに言うと、薬をの傷の部分に塗る。その塗り方は丁寧で優しい。
「ありがとうございます…。」
「はオレの恋人なんだし、傷なんて付いてるのが許せないからやってるだけだし。
当然のことに礼なんていらないよ。」
そう言うサクラの口調は淡々としていたが、薬を塗る手は丁寧で優しい。
「でも、私が鳥人界で戦士をしてることは反対しないんですね。」
「そりゃ、オレは恋人だけどがしたいことをオレが止める権利なんてないし。
それにオレだって好きなことやってるわけだから。」
サクラはつっけんどんでわがままのように見えるが、の意見をいつも尊重してくれるのだった。
七世界戦争の時に一緒に行動しているときも、いつもそうだった。だから、旅が終わった後のサクラからの告白を受け入れたのだった。
「でも、大変なこともあるけれど、世界を守る役目を果たせているから嬉しいです。
女性の戦士だからこそ役に立てることもあるみたいだから。
それに故郷にいるときみたいに、他の戦士におかしな絡み方をされることがないから、助かってます。」
「ま、バードと鳥王がなんか釘さしてんじゃないの。
なんだかんだであいつらトップなわけだし。」
「最近お二人にお会いする機会がないからまた挨拶にいかないといけませんね。」
「どーでもいいじゃん。それよりオレが作った香水、忘れずにつけていってるよね?」
「はい、気分がすっきりするので集中力があがる気がしてとてもいいですし…
それに、サクラさんが一緒にいてくれてる気がして、心強いから…好きです。」
がそう言うと、サクラは目を丸くしてを見る。は我に返り頬を上気させる。
「…すみません、恥ずかしいことを言って。」
「…別に。」
ふい、と横を向いたサクラの頬が真っ赤になっている。
それを見てが笑うと、サクラは笑うなよバカ、と言って頬を膨らませる。
けれど、その不機嫌な表情はすぐに解けてサクラはの髪を優しく手で梳く。
「その香水、これからもずっとつけていきなよ。」
「はい。」
サクラは満足そうな笑顔での顔をのぞき込んだ。
ふわりと甘い香りがして、はサクラの美しい笑顔に釘付けになる。どくどくと鼓動が高まっていく。
サクラはの頬に口づけをした。
「サクラさん、なんだかこの香り、とてもいい匂いがして…血行が良くなっているような…?
どんな植物なんですか?」
ふわふわとした感覚の中、がサクラに尋ねる。
「ああ、これはジョスニンという花の香りだよ。
恋人たちの気分を盛り上げる効果があるんだ。
まぁ、媚薬って奴。ちなみに毎日つけさせてる香水にはその逆の効果のある薬いれてんだけどね。
まぁ、男除けってやつ。よこしまな気持ちにならないやつね。」
「ええっ!?」
が驚いて声を上げるが、サクラはそんな様子を気にもとめる様子は微塵もない。
「いいだろ別に、男ばっかりのところに恋人をいかせてるんだからそれぐらいは。
てか、変な絡み方されなくなったからいいことだろ。」
「まぁ…それもそうですね。
でも、今の仲間はおかしなことを言ってくるような人がいないからそんな必要ないのでは。」
「あのさ、今だから言うけど今までのお前に絡んできた連中はお前が自分のものにならないから
あてつけに嫌がらせとかしてきてたんだって。絶対そう。」
「まさか。」
信じられない、と言った様子のにサクラはため息をつく。
「オレが綺麗だと思った女がほかの男が綺麗じゃないと思わないわけないだろ。
お前は綺麗だし、いい女だよ。」
「……ありがとうございます。」
真剣な顔で言われ、は顔を赤くする。サクラは優しく笑うとの唇にキスをして抱きしめた。
「のやりたいことは止めないけど、あまり無理はするなよ。
…心配してるんだから。」
「…はい。」
は瞳を閉じるとサクラの背に手を回して抱きしめ返した。
「サクラさん。」
「なんだよ。」
「私、サクラさんに幸せをもらってばかりですね。」
がそう言うと、サクラは目を丸くして、それから笑って聞こえるか聞こえないかの声で呟く。
「オレはお前にもらった幸せを返してるだけだよ。」
「え?」
「何でもないよ。」
サクラがの額に口づけるとふわりと甘い香りがして、幸せの香りとはこういうものなのだろうか、とは思った。